【第12回】コープさっぽろ農業賞(2024年)
農業賞 北海道知事大賞
株式会社 大地のMEGUMI(大空町)
有機JAS認証取得など、環境に配慮した農業を道内で先駆的に推進。かぼちゃや馬鈴しょの有機栽培や、アスパラガスの特別栽培に加え、町内小学生への栽培体験授業など、食育にも積極的に取り組んでいます。キッチンカーや冷凍食品のPRを行い、今後は有機JAS認証の冷凍加工食品の販売も見込まれ、さらに、さつまいも焼酎の試験栽培や製造施設の計画も進行中。地域に根差した活動と技術の普及に努め、持続可能な農業モデルとして高く評価されました。
農業賞 コープさっぽろ大賞
有限会社ベルセゾンファーム 折笠農場(幕別町)
関西生協などとの取引を通じて、消費者が求める安全・安心な農産物の提供に努め、2003年から無肥料自然栽培に挑戦。有機大豆や小麦を含む作物で有機JAS認証を取得し、国内初のオーガニック原材料を使った醤油やマスタードの開発・販売にも成功し、北海道内だけではなく、全国、世界中からも注目されています。さらに、馬鈴しょ「さやあかね」の品種開発協力など、地域農業の発展に貢献。社員教育や地元企業との連携もできており、持続可能なモデル農場として期待できる点において高く評価されました。
農業賞 特別賞
株式会社 渡辺農場(新ひだか町)
黒毛和牛の繁殖・肥育事業において、アニマルウェルフェアを重視し、快適な飼養環境と徹底した衛生管理のもとで牛を大切に育てています。道産原料を使用した発酵飼料(サイレージ)で、脂肪交雑にこだわらず健康的な牛肉を提供し、「桜黒和牛」として商標登録しブランド化にも注力。地域のお祭りでの販売やこども食堂への提供を通じて、消費者と交流し、地域に根ざした活動を展開。和牛改良組合の組合長や北海道指導農業士としての活動も評価されました。
鈴木牧場(広尾町)
牛サルモネラ症をきっかけに、牛の健康を重視した循環型酪農を追求し、放牧、オーガニック・グラスフェッド認証、A2ミルクなど希少な牛乳づくりを実現。廃棄農水産物を使った堆肥づくりや海水からの自家製塩の製造など、環境への配慮を徹底。冷凍オーガニック牛乳の販売や輸出も視野に入れており、持続可能で低コストな経営モデルを実現。家族経営ながら6次産業化に取り組み、本道酪農の新たな方向性を示す模範的な取組みとして評価されました。
農業賞 奨励賞
西川 直哉(和寒町)
水稲や野菜(かぼちゃ)栽培に加え、めん羊を組み合わせた複合経営を展開し、環境負荷の低減を図っています。特別栽培基準に基づく農薬削減や微生物資材の活用により、病害抑制や土壌改良に取り組む一方、羊の排泄物を肥料化し、規格外野菜を飼料として循環型農業を実践。希少品種「大地の星」の栽培や、トマトジュースの開発などで商品差別化も進め、新規就農者の支援にも力を注いでいます。環境と地域に根差した持続可能なモデルとして評価されました。
札幌チーズ株式会社 石狩ひつじ牧場(石狩市)
羊肉・羊乳の生産からチーズやジェラートの加工・販売まで幅広く展開し、6次産業化に成功しています。廃棄野菜をエサに使い、国有地の石狩川河川敷での放牧を通じて環境負荷を軽減し、低コストな飼養を実現。また、「ひつじデー」や地元イベントを通じた交流や、研修生支援による地域貢献も評価されています。人手不足や衛生管理の課題解決に向け継続した取り組みを期待。持続可能で循環型の経営を目指す取り組みが注目され、地域の協力とボランティアを得て成長を続けている点において評価されました。
北見市玉葱振興会 特別栽培部会(北見市)
約20年前より特別栽培玉ねぎ「環(めぐる)」の栽培を行い、化学肥料・農薬の使用を抑えた環境配慮型農業を推進しています。令和4年にはCO2削減を目指し、津別町のオフセット・クレジットを購入。さらに、令和5年からバイオ炭をほ場に施用し、Jクレジット制度を活用して排出削減に取り組んでいます。消費者との連携を図るため「コープ未来の森づくり基金」への寄付活動も実施。安定供給と持続可能な農業を目指し、他産地のモデルとして評価されました。
高陽 憲基(千歳市)
韓国から移住し、家族と共に研究を重ね安定経営を実現。科学的データ管理と分析に基づき、効率的で合理的な家族経営を行い、飼料生産に注力するなどコスト削減を徹底しています。牧場の次世代継承を視野に入れ、経営の充実と地域貢献を目指す理念を掲げ、デントコーンの高収穫技術やチーズ加工など新技術にも挑戦。ご子息への経営移譲を進め、次世代に向けた持続的な牧場経営を真摯に取り組む姿勢が評価されました。
落合農園(美深町)
かぼちゃの単作経営で、肥料や収穫後の熟成にこだわり、高い評価を得たおいしいかぼちゃを生産しています。道内特定のスーパーと安定的に取引する一方、全国展開も実施。連作障害回避のための緑肥導入や土壌分析などで改善に努め、AI機器も活用しながら生産技術を試行錯誤し質の向上に努めています。規格外品を活用したかぼちゃのバスクチーズケーキ製造にも着手し、今後はさらなる技術向上と加工品の割合増加による経営安定が期待できると評価されました。
農業賞 審査委員会特別賞
中仙道 怜(栗山町)
小学6年生から祖父の畑で作物栽培を始め、現在は高校2年生の「高校生ファーマー」として50品目・300品種以上の野菜を栽培しています。無農薬・有機質肥料を基本に、地域特産物の開発を目指して研究を重ね、北海道で栽培が難しい「大和ルージュ」などの栽培にも成功。自身の理想とする生産者の知見を取り入れ、土づくりや栽培技術を探求する一方、SNSでの発信や収穫体験を通じて地域や消費者との交流も積極的に行っています。現在は自由な挑戦を重視し、将来的には地域を活性化させる農業経営者としての活躍を目指すなど、未来の日本農業に明るい希望を感じさせる存在であると評価されました。
交流賞 札幌市長賞
株式会社 そばの坂本(幌加内町)
半世紀以上にわたり幌加内町でそばに向き合い、町独自品種「ほろみのり」の栽培・収量向上に取り組むとともに、製粉や半年間寝かせた「ねむり雪そば」などの個性的な商品開発を行っています。また、そば打ちの6段位を持ち、地元の幌加内高校でそば打ち講師として若い世代の人材育成にも力を注ぎ、卒業生がそば職人として活躍。さらに卒業生との交流を通じて、地域の活性化や新商品の開発にもつながっています。幌加内高校出身の石川さんとも連携し、地域の産業と人材を支え続け、幌加内町の未来を見据えた取り組みが高く評価されました。
交流賞 特別賞
株式会社 満寿屋商店(帯広市)
十勝産小麦の価値向上を目指し、2012年から全店のパンの原料を100%十勝産小麦にするなど、地産地消に徹底的にこだわった取り組みを展開しています。また、2005年から生産者や保育所・学校と連携して「手作りピザ教室」などの食育活動を830回以上実施し、地域の子供たちに十勝産小麦や地元農業への理解を促進。さらに、「2030年十勝がパン王国になる」というビジョンのもと、地域農業者や消費者との一体感を目指した活動も高く評価されました。長年の活動と交流による地域愛が感じられる企業です。
交流賞 優秀賞
一般社団法人Local Revolution(函館市)
函館で大量に漁獲され未利用資源となっているマイワシを活用し、異業種連携で「ハコダテアンチョビ」などの新たな特産品開発を進めています。地域の商業施設や水産加工会社、料理人らと協力し、特産品としての販売や地域交流の促進に取り組むほか、講演会やアンチョビ作り教室、こどもたちへの教育や福祉連携も展開。地域全体の活性化を目的とし、メディア露出も多く、波及効果が期待されており、気候変動による魚種転換などの課題解決モデルとしても評価されました。
交流賞 奨励賞
Mame Kitchen® Hokkaido(札幌市)
十勝・本別町への移住をきっかけに豆類の消費拡大に取り組み、札幌に豆料理専門店をオープンしました。管理栄養士やイベントディレクターの経験を活かし、豆おにぎりや豆スムージーなどのオリジナル料理を開発し、「本別町豆マルシェ」の開催や「北海道豆類品質研究普及協会」の設立など多様な活動を展開しています。その行動力と豆類への情熱が高く評価され、地域特産物を新しい形で発信されています。活動の持続に向け、さらなる進化を期待できると評価されました。
新規就農者賞 最優秀賞
とくながファーム(千歳市)
東京から北海道・千歳市に移住し、家族で持続可能な農業を目指して無農薬・無化学肥料の栽培を行っています。雅樹さんの公認会計士・税理士としての経験を活かした経営管理と、絵美さんの野菜ソムリエプロの資格を活用した生産物の魅力発信により、中長期的な視点で農業経営を改善中。地域の動物性堆肥などを使った土づくりに注力し、近隣スーパーや収穫体験を通じて地域との交流も進めています。新規就農者のリスク分散モデルとしても注目され、農業と兼業の両立により安定した経営基盤を築く意欲的な取り組みが高く評価されました。
新規就農者賞 特別賞
VEGGIEHILLS(当別町)
55歳で東京から移住・就農した夫婦が営む農場で、無農薬・無化学肥料栽培に取り組み、微生物資材を活用した土づくりを行っています。ミニトマトやかぼちゃを中心とした野菜を直売所や通販で販売し、年々売上を伸ばしており、地域で高い評価を得ています。また、札幌こども食堂への野菜提供、規格外品の加工利用、こどもの農業体験受け入れなど、地域貢献とフードロス削減にも注力。退職後に始めた新しい生き方として、地域との調和と持続可能な農業を目指しており、退職後の規就農者のロールモデルとなることを期待できるという点において高く評価されました。
新規就農者賞 優秀賞
福尾ファーム(新篠津村)
青年海外協力隊を志す中で農業に出会い、有機農業法人で就業した経験を経て、新規就農から10年が経過した農場です。3.2haと小規模ながらも、有機栽培のだいこん・にんじんに特化し、収益を安定的に増加させています。連作障害を回避するため、緑肥の導入や土壌消毒などの技術を活用し、食味の高い夏の有機だいこんとにんじんの栽培を行い、10社程度の安定した販路も確保。今後は地域や消費者との交流も期待され、持続可能な経営モデルとしても評価されました。
ビジネスモデル賞 最優秀賞
株式会社 谷口農場(旭川市)
谷口農場は、トマトや米の有機・特別栽培を基盤に、農産物の生産から加工・販売までを自社で一貫して行い、付加価値を高めることで持続可能なビジネスモデルを構築しています。規格外品を活用したトマトジュースや甘酒、コーンスープなどの加工品を自社製造するだけでなく、近隣農家や道内の他農家と連携し、さつまいもラテなど地域特産を活かした新商品開発も手掛けており、OEMの受注も増加。トマトもぎ取り体験園や直売所、SNSを通じた情報発信など消費者との交流も盛んに行い、ブランド力を強化しています。また、通年雇用や外国人実習生の活用、クラウドによる管理システム導入により効率化を図り、地域農業のリーダーとして持続可能な収益基盤を築いていることが高く評価されました。
ビジネスモデル賞 奨励賞
有限会社 中谷牧場(湧別町)
湧別町で乳質に優れたジャージー牛の飼育、特にA2ミルクにこだわり、粗飼料の完全自給や堆肥の還元、地域農家との協力など、持続可能な酪農経営を目指しています。また、佐呂間町の廃校を活用してジャージー乳を使ったアイスクリームやヨーグルトを製造・販売し、週末の来館者は300~500人、多い日は1,000人に達するなど人気を博しています。都市生活者との交流や地域活性化にもつながる活動が評価され、通信販売や宿泊事業も展開中。合理的な経営と6次産業化の推進が評価されました。
第12回コープさっぽろ農業賞審査委員長講評
元北海道農政部長、総合政策部長、元北海道銀行アグリビジネス推進室産業戦略部長
小野塚 修一様
この度、受賞されました皆様、大変おめでとうございます。そして、皆様それぞれが、明確な目標を持ち、
その実現に向けて日々努力を重ねておられますことに、心から敬意を表する次第です。
この度の審査は、14名の審査委員により、応募書類の審査並びにほ場や施設を直接訪問し、ヒアリングを行う現地審査により実施いたしました。
農林漁業は今、労働力の不足や生産資材価格の高騰・高止まりなど、難しい問題に直面しておりますが、近年の食料需給の不安定化などを背景に、消費者の皆さんの安全・安心な国産食料の安定供給を求める声、なかでも我が国最大の食料供給地域である北海道への期待は、これまで以上に高まってきております。
また、地球温暖化の進行に対応し、農林漁業分野においても、環境負荷の低減が強く求められており、全国に先駆け、環境に配慮したクリーン農業を官民挙げて推進してきた本道は、可能な限りそうした取組を先導していかなければなりません。
このような中、まず農業賞の審査では、野菜や畑作物等の有機栽培や特別栽培、未利用資源の堆肥や飼料などとしての活用、自給飼料の拡大や家畜の健康を重視した畜産の展開など、環境にやさしい持続可能な農業の推進に意欲的に取り組まれる生産者の皆さんの高い意識と実行力に感銘を受けました。
とりわけ、有機農業等の技術を地域に円滑に導入するための試験研究や普及活動への協力、人材育成など、公益性の高い取組に力を注がれる生産者もおられ、北海道知事大賞などの選考も難航いたしましたが、主催者のご理解により、当初予定していなかったコープさっぽろ大賞を設けるなどいたしまして、審査委員の総意により、受賞者の皆さんを選定させていただきました。
また、交流賞の審査では、受賞者の皆さんは、地域の基幹作物や特産品となり得る品目を柱に、その付加価値向上などを目指し、世代や業種などを超えた多様な交流を進められておりますが、そのことが確実に農業・漁業や地域を動かし、元気にしていく大きな力となっており、改めて人々の交流や連携の大切さを教えていただきました。
そして、新規就農者賞の受賞者の皆さんは、ご夫婦の適切な役割分担の下、農薬や化学肥料を節減した野菜等の栽培や販売などに取り組まれておりますが、就農のスタイルは、それぞれ、他分野の業務を兼業部門として継続しながらの就農、退職後の第二の人生としての就農、農業法人への雇用就農を経ての就農といった特徴があり、これまでの業務経験や知識を活かした新規就農のモデルとしての役割も期待されるものと考え、受賞の対象とさせていただいたところです。
また、ビジネスモデル賞の審査では、近年、6次産業化の取組が、その定着や発展に至らないケースが散見される中、受賞者の皆さんは、農業経営の基本となる1次産業部門において、特色のある農業生産により、しっかりとした基盤を築きつつ、その生産物の優位性を活かした加工品づくりなど他の事業部門を含む経営全体の方向性を見据えた計画的な事業展開をされており、そうした取組の重要性を示す優れたモデルが提示されたものと、高く評価させていただきました。
審査の概要は以上のとおりですが、以前、私が北海道職員として農業振興の業務に当たっていた頃の尊敬する先輩に、道立中央農業試験場の場長などを務められた相馬暁先生がおられます。
相馬先生は、20年近く前に、満63歳の若さでお亡くなりになりましたが、それまでの間、「クリーン農業」を先頭に立って推進されるほか、北海道の野菜博士と呼ばれ、今回審査委員のお一人でもある宇都宮さんとのテレビ番組や各種の講演活動などを通じ、野菜をはじめ、食や農業の大切さなどについて、消費者の皆さん、生産者の皆さんに、積極的に情報を発信されました。ご存じの方も多いものと思います。
先生が亡くなられる1年ほど前に発刊された著書「2020年農業が輝く」では、「21世紀は農業と環境の時代である」ということに加え、「農業の持続的な発展には、消費者との連携が欠かせない、作る人と食べる人との対話が前提で、その上で、これからのあるべき農業の姿、食の姿を共に探求していくことが必要である」といったことが記されています。
「北海道の優秀な生産者を消費者の視点から応援し表彰する」コープさっぽろ農業賞は、正に消費者と生産者との距離を縮め、共に農業や食の未来を考え、切り拓いていくことにつながる大変意義のある取組であり、そうした賞の価値を更に高めていくためにも、この度受賞された生産者の皆さんの取組や思いを広く発信していかなければならないものと思います。
また、今回審査させていただいた対象者の中に、祖父の所有される畑の一部を借り受け、6年ほど前から農業に取り組まれる農業高校・二年生の生徒さんがおられました。中仙道怜さんです。
その青年は現在、50品目300品種以上の野菜などを無農薬、有機質肥料を基本に栽培されるほか、加工や販売、SNS等による情報発信にも取り組まれております。「将来は日本を代表する農業経営者となり、新しい特産品を開発したい、地域を活性化させたい」と、日々手をかけてきた畑と成長する作物を前に、目を輝かせ生き生きと語るその姿に、現地審査に当たった審査委員は皆、感嘆の声を上げることになりました。
残念なことに、今はまだ経営者ではない青年の取組は、農業賞の審査の枠組みでは評価が難しい面があり、私たちは、希望にあふれる前途を期待し、審査委員会特別賞という形で表彰させていただくこととしました。
先ほどご紹介した相馬先生はまた、「土との対話、作物との対話、人との対話ができる生産者を育てたい」とも述べられています。
もしも今、先生がここにおられたなら、農業を、畑を愛し、作物に話しかけるこの青年を、そして、先生も情熱を注がれた、持続可能な農業の推進や高付加価値化、人や地域との交流などに誠実に取り組まれている受賞者の皆さんを、きっと笑顔で祝福し、さらに輝く北海道農業の未来に向けて力を貸してほしい、そんなエールを送られるのではないか、そのように思います。
改めて受賞者の皆様にお祝いを申し上げますとともに、関係の皆様のご協力に感謝を申し上げ、審査を振り返っての言葉とさせていただきます。ありがとうございました。