Vol.19 フランスで最も美しい村 ~景観を活かした村づくりとは?~

2011年から3年間、スローフードの発祥の地であるイタリア北部のトリノ、2016年から2年間は、世界料理学会・バル街など美食の街として名高いスペイン北部のサンセバスチャンを中心に、食の最先端視察を実施し、“食”を軸とした北海道の地域振興のヒントをたくさんいただいた。
こうした経緯の中で、イタリアのトリノと、スペインのサンセバスチャンは、緯度がほぼ同じであり、陸続きの食文化の変遷を学ぶ意味でも、継続した食視察の成果がおより得られる地は、フランスの中でも南フランスのプロヴァンス地方なのではないかということと、フランスは、味覚教育や教育ファームなどの食教育を、国をあげて行われており、次の視察地として最適なのではないかと思い、フランスを次なる視察地とした。

フランスの食文化や先進的な取組を調べてみると、フランスから始まった興味深い取組として「フランスで最も美しい村」を知った。食と景観を活かした地域振興は大変興味深い。そして、この美しい村の取組は日本でも実施されており、日本で初めて美しい村の取組を実践されたのが「美瑛町」だった。そこで、日本で最初にこの取組を始められた美瑛町の浜田町長にお話を伺いに美瑛町を訪れた。

<日本で最も美しい村連合をスタートされた 北海道美瑛町 浜田町長インタビュー>

お話を伺ったのは2017年11月6日。2008年に開催された北海学園大学経済学部 コープさっぽろ寄付講座「21世紀・北海道の将来を展望する」において、「日本で最も美しい町、美瑛から」というタイトルでご講演いただいていたので、その時のお話を交えながらディスカッションさせていただいた。
美瑛町は人口10,188人(2018年2月28日現在)、北海道第2の都市「旭川市」から車で40分程度の場所に位置する。じゃがいも、小麦、豆類などの畑作を中心とする農業の町で、その農業が「丘のまち びえい」の美しい景観を作り出している。その美瑛町を中心に2005年10月に7つの町村からスタートしたのが「日本で最も美しい村」連合である。現在は63の市町村にまで拡大している。連合に加盟するための条件は3つ。人口が概ね1万人以下であること、地域資源が2つ以上であること(景観・文化など)、連合が評価する地域資源を活かす活動があること。この3つ目の条件に関しては、美しい景観を配慮したまちづくりがなされているかどうか、住民による工夫した地域活動が行われているかどうか、地域特有の工芸品や生活様式を頑なに守っているかどうかなどが含まれている。
浜田町長になぜ、この美しい村の取組をされたのか伺ってみたところ、近年、日本では市町村合併が進み、小さくても美しい地域資源を持つ村の存続や美しい景観の保護などが難しくなっており、フランスの素朴な美しい村を厳選し紹介する『フランスで最も美しい村』の活動に範をとり、失ったら二度と取り戻せない日本の農山村の景観・文化を守る活動を始めたいと思いこの取り組みを始めたとのこと。小さくても輝くオンリーワンを持つ農山村が、自らの街や村に誇りをもって自立し、将来にわたって美しい地域であり続けるお手伝いをしたい。具体的には、『日本で最も美しい村』のシンボルマークを、日本のみならず世界的に観光地や文化地域としての目印にするのが目標。フランスでは既にガイドブックや地図に載るほど有名な活動に成長している。自然と人間の営みが長い年月をかけてつくりあげた小さな、本当に美しい日本は、いまならまだ各地に残されている。それらを慈しみ、楽しみ、そして、しっかりと未来に残すためにこれからもこの取り組みを行っていきたいとのお話を伺った。そして、東京に「日本で最も美しい村」の事務局があり、フランスにも詳しい方がいらっしゃるとご紹介いただいたので、早速東京に行かせていただいた。

美瑛町 町長 浜田哲氏
美瑛町の「日本で最も美しい村」ロゴ

<東京神田「日本で最も美しい村」事務局 訪問>

「日本で最も美しい村連合」の事務局は、東京神田にある。3名の事務局の方が在籍しておられ、日本の美しい村連合の取組の運営・管理や諸外国の美しい村とのやり取りをされている。今回は、事務局長の嵯城氏とフランス大学院への留学をされ、フランスの最も美しい村を何度も訪問されている高津氏に、世界の最も美しい村の取組に関してお話を伺った。

東京神田 美しい村事務局 入口
フランスで最も美しい村の取組について詳細に教えてくださった事務局の高津氏

「フランスで最も美しい村(仏:Les plus beaux villages de France)」は、1982年にフランス コロンジュ=ラ=ルージュ(コレーズ県)で設立された協会。その目的は、質の良い遺産を多く持つ田舎の小さな村の観光を促進することにある。協会の所在地はコロンジュ=ラ=ルージュであるが、事務局はクレルモン=フェランにある。現在、協会の長を務めるのはゴルドの長であるモーリス・シャベール氏。協会ではブランドの信頼性と正当性を高めるために厳しい選考基準を設けている。協会の定めた基準はいくつもあるが要約すると以下の3点。1つ目は、人口が2000人を超えないこと、2つ目は、最低2つの遺産・遺跡(景観、芸術、科学、歴史など)があり土地利用計画で保護のための政策が行われていること、3つ目は、コミューン議会で同意が得られていることである。従って、景観を破壊するような建物や設備は制限される。このことで経済発展は妨げられるが観光の面ではプラスになっている。また、認定後にも審査があり資格が剥奪されることもある。2009年10月現在で151のコミューンと数千の会員を有している。似たような協会は、ベルギーのワロン地域の「ワロン地域の最も美しい村(フランス語版)」やイタリアの「イタリアの最も美しい村」、カナダ・ケベック州の「ケベックの最も美しい村(フランス語版)」、日本の「日本で最も美しい村連合」が挙げられ、これらを統合した世界で最も美しい村連合も設立された。日本の美しい村もこのフランスの条件を元に独自に制定されている。日本では、行政の統合や合併が進み、2,000人以下の市町村が少ないこともあり、日本独自の基準で1万人程度とされていると、フランスの大学院への留学のご経験がある高津氏にお話を伺うことができた。

フランスで最も美しい村に登録されている村々のマップ

※ 引用:フランスで最も美しい村 公式サイトより 2018.3.29時点

こうしたお話を伺う中で、「美しい村」が条件づけている「美しい」とは、いったいどんなものなのか?この「美しい村」の取組によって、村がどう変わり、どんな効果があったのか、実際に自分の目で確かめてみたいと思った。フランスの美しい村の公式サイトを見ていても、南フランスに美しい村が多い。そこで、まずは南フランスの中でもフランス南西部のブーシュ=デュ=ローヌ県にある「レ・ボー=ド=プロヴァンス(Les Baux-de-Provence)」と、フランスの美しい村の協会長がいらっしゃるプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏、ヴォクリューズ県の「ゴルド(Gordes)」を訪問した。その時の感想を中心にお伝えしたい。

<レ・ボー=ド=プロヴァンス(Les Baux-de-Provence)>

まず訪れたのが「レ・ボー=ド=プロヴァンス」。今回イタリアでお世話になった友人のお母様に「レ・ボーはとっても素敵な所よ~♪」と教えていただき、行ってみることにした。しかし、行くまでは正直そんなに期待していなかった。そもそも「美しい村」というものがどんなものなのか想像がつかなかったからである。しかし、行ってみるとま~素敵♪なんだか夢の世界に来たようだった。
レ・ボー=ド=プロヴァンスは、アルピーユ山脈の中にある壮大な景観を持つ岩だらけの土地で、南方の平野を見渡せる古城を頂いている。プロヴァンス語の baou (岩だらけの尾根の意)に由来する町の名前は、その景観からつけられたものだという。村に近づくと、その古城の頂が目に入る。何だかおとぎ話の世界の様な美しさが感じられる。なかなか日本では見ることができない景色だからかもしれない。

レ・ボー=ド=プロヴァンスのフランスで最も美しい村のロゴ看板
村に近づくとまず目に入る古城の頂
レ・ボー=ド=プロヴァンスの全体像
と~っても丁寧にレ・ボー=ド=プロヴァンスをご案内くださったインフォの方
レ・ボー=ド=プロヴァンスの街並み
天気もよくてとっても気持ちよかった♪
プロヴァンスらしいラベンダーもたくさん売られている
古城跡入口。有料(8.5€)で見られる
レボーの有名な詩人 シャルーン リュー像
古城跡!ここまでくるにはかなり細い階段を上りますよー
広大なオリーブ畑 圧巻!!!

<レ・ボー=ド=プロヴァンスでの食事>

フランスの美しい村で知りたかったのが、「美しい村」と「食」の関係。2,000人以下という小さな村に果たしてレストランがあるのか?しかもそれは美味しいのか?かなり気になっていた。結果は、「美味しいお店はあった」。
伺ったのは「Hostellerie de la Reine-Jeanne」。インフォポイントで「レ・ボーのローカルなお食事が食べたい」と相談したところ、こちらをご紹介いただいた。ホテルも併設されている。Jean-Pierre Noviシェフはレ・ボー生まれ。日本の三笠会館でもお仕事されたことがある親日家だった。レ・ボーの特産品は、ヤギ肉、鱠、オリーブオイル、ワイン、そして近郊のカマルグでとれる塩だとシェフに伺い、カルチョーフィやトマトなどの野菜煮込み、鱠のマリネ、ヤギ肉のローストをいただいた。フランスはバターを沢山使った料理が多いと思っていたが、レ・ボーではオリーブオイルが特産ということもあり、あっさりとしながら、近郊のカマルグの塩が利いたしっかりとした味でとても美味しかった。この地域は新鮮な野菜を市場で手に入れることができるので、その季節にあわせた食事を提供できるようにいつも心がけておられるとのことだった。

お店の入り口
旅行ガイドブック「Guide Du Routard France」の認定などもあった
メニューはこんな感じ♪山羊肉が有名
店内は、レ・ボーの景観を楽しめる開放的な雰囲気
カフェやお酒が飲めるカウンター
日本の三笠会館でも働いたことがあるシェフ
カルチョーフィやトマトなどの野菜煮込み
鱠のマリネ ディルバターの爽やかな香りで意外とさっぱり
山羊肉の香草焼き ~季節の野菜のグリル添え~
食後のコーヒー(クッキー付)

<ゴルド(Gordes)>

ゴルドはフランスのプロヴァンス地方にある、フランスで最も美しい村のひとつ。現在、美しい村の協会の長を務められているのが、ゴルドの長であるモーリス・シャベール氏。岩だらけであるカラヴォン谷の頂上にあり、リュベロン山地と対面した形になっている。ゴルドの丘の上には12世紀ごろからこのリュベロンの谷を見守ってきた、ゴルドのシンボル的存在でもある城塞シャトーがそびえたっている。ゴルドの家は、崖にへばりつくように家々が広がっており、遠方から見るとまるで宙に浮いているように見えるため、『鷲の巣村』とも呼ばれる。フランスのミシュランガイド(2017)を見ると、星付きのレストランが複数あり、美味しいお食事が食べられる町の一つでもある。残念ながら「La Table de Xavier Mathieu」は、訪問した時、1年間のお休みということでお食事はできなかったが、とても雰囲気のある場所だった。次回、来られることがあればぜひ伺ってみたい。

ゴルドの美しい村の標識
お城がバーンっ!
車に美しい村のステッカー発見!なんか可愛い♪
何気ない小道が素敵でした
広場前
1年休業だった一つ星のレストラン前。残念‥

<美しい村を数か所まわってみて感じたこと>

1.「美しい村」の「美しさ」の定義

訪れてみた感想は、フランスの美しい村事務局は、外観が美しい村であることだけでなく、生活者の息遣いが聞こえるからこそ美しいと感じるところ。美しい村の作られた村だから美しいのではなく、その土地の人たちがそこで生活をし、その美しさに誇りを持ち、大事にしながら生きている、そんな空気を肌で感じることができた。
そして美しい村は、美しいからこそ特別であり、訪れるものに感動を与える。訪れてみるまで、美しい村とはどう美しいのか?私も美しいと感じるのか?「美しい」の基準は何なのか?よく分からなかった。自分自身がどう感じるのか訪れてみて、自分自身に確かめてみたかった。「美しい」の基準は、多様であることは確かだが、「生活に根差した自然の美しさ」が美しい村にはあると感じた。それは、人間が手をかけても決して作ることができない美しさだからこそ「本当の美しさ」を感じ、感動を得られたのだと思う。自然の美しさというよりは、「自然とともに作られた美しさ」がそこにあった気がする。

2.「美しい村」と「食事」の関係

そして美しい場所には自然と人が集まる。人が集まると美味しいもの素敵なお店が周りにできてくる。美し村に認定されたために美味しいお店がその土地にできたのか、最初から美味しいお店があったのかは定かではない部分もあるが、村の美しさと食事や食材のおいしさが相乗的に価値を高め、村全体の価値創造に繋がっていたように感じる。食と村づくりの関係性の一部を感じ取ることができた。2016年に開催された「世界料理学会in HAKODATE」のパネルディスカッションで玉村豊男氏が「村の活性化を望むのであれば、立派な施設よりも一人の有能な料理人を呼んだ方がいい」というお言葉を思い出した。地域振興には「食」の力が大きい。その土地ならではの食材を使い、革新を重ねながら伝統的な食事を作るのはまさに「テロワール」そのもの。美しい村と食はテロワールを象徴する要因の一つなのだとあらためて感じた。

3.観光ロゴ ~すぐ見て価値が分かるロゴの価値・ミシュラン方式の認証システム~

フランスで強く感じたのは看板・ロゴの多さである。美しい村のロゴは、単独で村の入り口に取り付けられていたのだが、車で移動していると色んなロゴに出会った。以下のロゴは「Vallée du Rhône, Terroirs d’Accueil」というロゴで、直訳すると「ロワーヌ渓谷のアクセス可能なテロワール」で、「ロワーヌ川流域のいくことができるワイナリー」でそのおすすめ度を、ワインの葉で示している。ワインの葉1~3枚で格付けされている。レ・ボー周辺を車で回っていた際、シャトーヌフ・デュ・パプ(Châteauneuf-du-Pape)というコート・ド・ローヌの中で最も知名度が高いワインの名産地を巡っていて、このサインを沢山見かけ、「あっ、ここもワイン買ったり見たりするのにいいみたい」「ここも行ってみようか~」という気持ちにされ、3カ所のワイナリーに行くことができた。
これは一例で、ホテルやレストラン、お花など、様々な看板を見た。フランスでは標識に色んな格付けが付いているのだと毎日思ったものである。
こうしたサインがあると、公的評価が下されている場所なので、「なんか良さそう、行ってみようかな~」という動機づけをしてくれる。これは、レストランに対して星をあたえるミシュランの方式にすごく似ていると感じた。国や自治体が評価基準を作り、商品・サービスの標準化及び品質保証を行う仕組みはフランスが得意とするところなのだろう。

ロワール
ブルゴーニュ地方のワイン観光ロゴ
「シャンブル・ドットロゴ」  一般家庭のゲストルームに宿泊できる場所のロゴ 個人で所有するお城も含まれる。泊まってみたい
仏国立観光事務所のロゴ

そしてこのロゴは、評価基準の「標準化」と「ブランディング」に繋がっている。各村を一定の基準で評価し、「美しい村」というブランド認定することによって、その村の美しさを特別なものだと多くの生活者に認知させる仕組みづくりは、まさに「美しい村」の取り組みだと感じた。そして「美しい村」という認証が与えられることによって、一つ行くともう一つはどんな村なのだろうと、複数の村を訪れてみたくなる。せっかくここまで来たから、他の美しい村も行ってみようかな~?という気持ちにさせてくれる。今回の視察の目的は、まずは美しい村の設立に大きく寄与した、初代美しい村の理事長になられたゴルド村を訪れることが目的であったが、よく調べてみると車で15分程度の場所に美しい村が複数あることが分かり、であれば色々周ってみたいという気持ちになった。
この「標準化」と「ブランディング」は、美しい村だけでなく、ワインを代表とする食品の評価にも活用されている」。A.O.C.(Appéllation d’Origine Controlée): 原産地管理呼称、A.O.P.(Appéllation d’Origine Protégée): 原産地保護呼称、I.G.P.(Indication Géographique Protégée): 地理的保護表示、Agriculture biologique (AB):有機農産物などの商品評価基準、ラベル表示はその一例である。

そして「フランスで最も美しい村」への訪問を通して感じたのは、人を世界から呼べる地域になるには、一カ所だけ強かったり、面白くてもきっとダメなんだろうと思ったことである。車で1時間くらいで周れる地域の中に、複数個所行ける場所がないと人を呼ぶのは難しい。つまり、「地域力」が必要だということである。
北海道には美しい場所、面白い場所がたくさんある。点で見たらたくさんある。しかし、世界から魅力ある場所として情報発信するには、その地域で一カ所だけが面白いというのは、人を呼べるには限界があると感じる。地域で一緒にパワーアップして強くなる。そして地域の魅力を一緒にアップする。こういう取組が必要なのだと感じた。
何かやりたかったら、地域丸ごと強くなる方法を考えた方がいい。これが今回の美しい村で感じたことである。人間も同じだなー。自分一人で何かやるには限界がある。組織で強くならなきゃイイことはなかなかできない。そんなことを考えさせてくれた「フランスで最も美しい村だった」。また美しい村を色々回ってみたい。


<参考文献・サイト>
・北海学園大学経済学部コープさっぽろ寄附講座運営委員会 監修 中西出版, 2008.11
・増補版 「フランスの最も美しい村」 全踏破の旅 単行本(ソフトカバー), 2017/7/21吉村 和敏 (著)

視察日:2018年3月10日・11日
通訳・コーディネート:Pier Giorgio Girasole
写真・文:星野浩美
※役職などは、視察日現在

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