Vol 10. 教育農場(南イタリア編)
教育農場を支えるもう一つの機関 ~NPO団体の取り組み~
カンパーニャ州の教育農場の「仕組みづくり」において、州農政部の役割は大きいと先のレポートで述べたが、教育農場の「教育の質」を高める役割として、NPO団体の役割が大きいと感じた。カンパーニャ州の7つの教育農場を視察する中で感じたことを、これからお伝えしたいと思う。
AGIRIGHIOCHIAMO ~食育推進のサポーター的存在のNPO団体~
事前にカンパーニャ州の教育農場を調べていると、AGIRIGHIOCHIAMOという団体の活動をよく目にしていた。農政部のAntonio氏とも知り合いで、実際に会うことができた。
AGIRIGHIOCHIAMOとは、「AGRI(農業)」+「GHIOCHI(遊び)」+「…AMO(~しよう!)」=「農業を遊びながら学ぼう!」という意味をもった造語。2010年にNPO団体として設立され、主な活動者は、4名。Giuseppe Orefice(ジュゼッペ)さん、Margherita(マルゲリータ)さんなど。スタッフは、大学院でガストロノミーを専攻した方や、農学博士など、食と農業に精通したスタッフによって運営されていた。
AGIRIGHIOCHIAMOの事業の柱は6つ。レクリエーション活動(農場などでのオペレーター)、オーダーメードのワークショップ・コースデザイン、書籍・マニュアル・ガイド・情報ツールの作成、研修(カンパーニャ州などの行政からも依頼を受ける)、コンサルティング業務、展示会・イベントの企画・立案・実行である。
活動の柱の一つが、「農園でのレクリエーション業務」。これは、農業生産者と一緒にプログラムを開発し、時には農業生産者に代わって、農園や作物の特徴を分かりやすく伝えるというもの。教育・ガストロノミーのプロフェッショナルである彼らと、農業のプロフェッショナルである生産者がタッグを組んで農園をアピールし、農業の素晴らしさを体感を通して実感してもらう取り組みは、現在、日本の各地でも行われているが、AGIRIGHIOCHIAMOは、世界的にもその先駆けともいえる存在だろう。彼らのプログラムの教育的な特徴は、すべて「ゲーム」を通して学ぶこと。単なる情報伝達ではなく、子どもたち自身が楽しい体験を通して農業に触れてほしいという思いがある。
書籍化に関しては、実際に5年以上かけてイアリア中の教育農場を訪問し、その実態をまとめた「i Buoni Fruttii」や、教育農場の歴史やマーケティングの現状、教育プログラムのシナリオの作り方などをまとめた「fattoria didattica」などが発行されている。教育農場の実態の数値化・理論化を実践されている点は、世界でも珍しく、素晴らしい取り組みだ。
AGIRIGHIOCHIAMOは経営陣の他に、50名ほどの契約スタッフがいる。大学で教育・農学・情報学などを学んだ方をスタッフとして採用し、質の高い教育を提供している。
AGRIGIOCHIAMOの顧客は、生産者・企業(加工業者含む)・行政で、スローフードの教育部門とも連携している。カンパーニャ州では8つ、その他の州では6つの教育農場を直接コーディネートしており、トータルで800の企業に、トレーニングを行っている。今後はイタリアだけでなく、ヨーロッパでの事業展開を考えているとのこと。また、教育の質を確保するために、プログラムの理論的妥当性を確保する必要があるとジュゼッペ氏も述べており、専門家(大学)・研究機関とのコラボレーションが重要であるともお話されていた。
カンパーニャ州 教育農場視察地紹介
今回は1週間で、7か所の教育農場を視察した。AGRIGIOCHIAMOの皆さん、州農政部のAntonioさんに毎日のようにアテンドしていただいた。
その中で、「Le Tore」と「Gio Sole」を紹介する。
- Masseria Panico(in Somma Vesuina)
- La Colombaia(in Capua)
- Le Tore
- Coopertiva Agrituristica La Ginestra
- Astapiana Villa Giusso
- Il Gialdino dell’Orco
- Gio Sole
Le Tore 2014年1月24日(金)
オリーブオイルを主に生産している生産者。少数ではあるが日本にも輸出。牛数頭と、ニワトリ20羽程度の小さな農場。オリーブオイルの良さ、美味しさを地元の子どもたちにも知ってほしいという思いから、AGRIGIOCHIAMOにプログラム開発を依頼し、実践している。
オリーブオイルのテイスティングプログラムの流れ
五感を使って地域の食材を味わうプログラム。この農場はオリーブオオイルを生産し
- オリーブの木の下で、青いテイスティングカップを子どもたちに配る。テイスティングでは、視覚は不要。色で判断がつかないようにしている。
- 子どもたちにはすごく静かにするように小さな声で話しかける。
- 香りが逃げないように、手で温めて香りを際立出せる。
- まず、香りを嗅ぐ。香りの強さをまず感じる。子どもたちどう感じるかを答えてもらう。
- どれだけ匂いが強いか、子どもたちには尺度がないので、3つの尺度で強さを理解してもらう。
①もっとも強い香り:お腹位
②中くらいの強さの香り:顎の下
③もっとも弱い香り:鼻の下 - オリーブオイルは香りが強ければいいわけではない。ワインと同じように、それぞれのオリーブオイルに合うメニューがあることを伝える。例えば、繊細な香りがするオリーブオイルには、強い味のお料理ではなく、豆を煮たものなど、繊細な味の料理に合うなど。
- その話のあとに、もう一度香りを嗅がせる。今度はどんな種類の香りがするか、答えてもらう。
- 嫌な香りがしたら欠陥オイルなので、それで終了。
- 香りの種類が、木の皮・トマトの葉っぱなど、その香りの種類を訪ねる。
- 色んな香りを感じられると、複雑な味わいのオイルだと言える。
- 辛味と苦みを感じるオイルはいいオイルだと言われている。いい成分が残っているから。(木が話しているように、伝える)
Gio Sole 2014年1月26日(日)
トマトなどの加工品製造・オリーブオイル・アグリツールズモを運営している農場。60haの敷地があり、300年以上続く農家。お会いした、アレッサンドロ氏(オーナー、貴族(男爵))の代では、生産の他に、食品加工を始めた。それらの味を知ってもらうために、2000年位から家族向けに試食などを始めた。
現在は、AGRIGIOCHIAMOとのコラボレーションの中で、従来型の教育農場のプログラムにスポーツの要素を取り入れた、新しいプログラムを作成中とのこと。入場料は、食事込みで大人35€、子ども25€。費用は高め。食だけでなく、教育への関心が高いファミリーが来ていた。
2014年1月26日(日) 星野浩美