Vol 09. カンパーニャ州の食教育

カンパーニャ州の食育とは?

2014年1月、北イタリアの次なる視察地として、南イタリアのカンパーニャ州を訪れた。

カンパニア州(イタリア語: Campania)は、イタリア共和国南部のティレニア海沿岸にある州。レモンを用いたリキュールのリモンチェッロ(Limoncello)でも有名。州都はイタリア第3位の人口を擁する都市であるナポリ。農業・漁業ともに盛んで、国土の32%が農地。年間農業生産額は、6,600億€。州のGNPの3%を占める(2014年1月現在)。まさに、イタリアの農業を支える地域。食料自給率が200%を超え、日本の農業を支えている北海道と、生産地であるという点で、カンパーニャ州と北海道は共通点が多い。このカンパーニャ州では、どのような食教育が行われているのか興味があり、カンパーニャ州を視察地に決めた。

カンパーニャ州庁のオフィスは、ナポリの中心街から10分程度のビジネス街に位置する。教育農場をはじめとする食教育は、農政部の管轄。担当職員は、80名程度。食育・教育農場関連の年間の予算は、450万€(5億3,000万程度)。イタリア政府・EUから得ている。

今回の視察では、農政部のAntonio氏と、Stanisalau氏に1週間程度お世話になった。今回は特に、教育農場をどのように運営・管理しているのかをヒアリングした

大変お世話になった農政部のAntonio氏
教育農場の管理を担当しているStanisalau氏

認定教育農場とは?

カンパーニャ州の食教育推進には、教育農場の存在が欠かせない。広大な農場を有するカンパーニャ州だからできる食育推進を目指しており、農水部門のトップであるMaria氏は「我々カンパーニャ州の教育農場の取り組みは、農業生産の価値がアップする取組」だとおっしゃっていた。

カンパーニャ州は、教育農場に認定制度を設けている。州から認定されなければ、教育農場としての活動はできない仕組みになっている。同州が「認定教育農場制度」を始めたのは2000年。2014年現在で認定教育農場は237農場。2007年から2013年の7年間で、127件から87%増加している。カンパーニャ州の認定制度は、エミリアロマーニャ州を参考に作られ、以下の5点を認定要件としている。

  1. Safety(安全性)
  2. Cleanliness(清潔さ)
  3. Hospitality(おもてなし)
  4. Food(食べ物)
  5. Education(教育)

Safety(安全性)は、施設などのハードだけでなく、言葉遣いを含むソフト面でも「安全」であることが条件とされ、動物の角や爪の管理も含まれる。Cleanliness(清潔さ)では、特に重視しているのがトイレ。2010年から水洗トイレであることを必須条件としている。
これは「農園=汚い場所」だと思ってしまうと農場には二度と来たいと思ってもらえないこと、食事をするところでもあるということから、これを要件に加えた。

Hospitality(おもてなし)では、家族の様なもてなしが必要で、それがリピーターにつながるとしている。Food(食べ物)は、教育農場で採れたもの、もしくは地元の生産物のみを使うこととされている。これはカンパーニャ州独自の認定要件。

Education(教育)は、体験する機会の提供であり、教育者の質が体験価値に大きく影響するので、教育がもっとも大事だと伺った。 教育価値を高めるために、養成講座にも力をいれていた。認定を受けるためには、32時間の講座を受ける必要がある。認定を受けた後も、教育レベルをアップしたいと思う生産者には、イベントや講習を受ける機会を提供している。

テリトリオの重視

カンパーニャ州を訪れて強く感じたのはテリトリオを重視しているということ。
テリトリオとは、「気候や風土、地勢、地域農産物の多様性や品種といった天然資源」 を指す。カンパーニャ州の教育農場は、意識的に、地域で採れたものを提供し、その価値を知ってもらおうという取り組みを、地域全体で行っているということが特徴だと思う。当たり前のようだが、地域全体で徹底して行うのはなかなかできることではない。教育農場の「仕組みづくり」を行った州農政部の役割は非常に大きい。

DOP(保護指定原産地呼称)。原産地が明確な商品に与える、政府の「お墨付き」 このロゴが入った商品を販売している教育農場もあった
Coopertiva Agrituristica La Ginestraという教育農場で食べたランチプレート。材料は全てこの農場で採れたもの

地域住民への食育の情報発信

驚いたのは、州農政部が、30秒のCMを10局のローカルテレビで、12時、15時、18時、20時に2つのテーマのCMを流していること!しかも3か月に一度その内容を変えているという。自分たちの土地の作物を食べると、どんないいのことがあるのか(テリトリオの重要性)を、地域住民みなさんに知ってもらうためにCMを流しているという。制作した作品の中には、子どもたち自身がカメラを持って撮影しものもあり、国から表彰も受けている。

また、学校との連携も重視し、教師向けの食育のテキストやWEB教材も数多く制作している。子どもたちには、イベント時にリストバンド型のUSBが配られ、その中には食育教材のデータが入れられていた。教育農場だけでなく、そこで教育を受ける子どもや学校教員向けへの情報提供にも力を入れていた。少しでも楽しく地域の食を学んでほしいという州の意向が強く感じられる取組だった。

2014年1月 星野浩美
i 出典:木村純子(2014).生産者価値の事故創出:競争優位性としてのテリトリ

組合員に加入して
便利で快適なサービスを
利用しよう!

はじめての方へ 加入申込 宅配トドックの資料請求