2024.5.14
-Story03- 「組合員さんの期待に応えたい」 製造の裏側、さくら食品の挑戦
組合員さんと作るアイスクリーム商品開発プロジェクト。3 回目は、実際にアイスの製造を手がけたさくら食品株式会社(小樽市)の盛川智彦社長と商品開発部の米森結望部長にインタビュー。商品完成までにはアイスならではの難題や、想像の斜め上をいく驚きの工夫がこらされていました。
—今回の商品開発プロジェクトを聞いたときに、どう思いましたか?
盛川 願ってもないチャンスだと思いました。コープさっぽろの組合員さん、つまり消費者の方と直接対話しながら商品を作る機会というのは、望んでもなかなかできることではありません。コープさっぽろの関連会社として今回の商品開発に参加させてもらえたのは、私たちとしても非常にありがたいことです。ただ、開発は大変だったと思いますよ。
米森 組合員さんからいただいたたくさんのアイデアやご意見を、アイス製造の枠組みにどう翻訳して落とし込み、なおかつ衛生面や品質を担保しうるか。皆さんが納得できる着地点を探す作業は、たしかに大変ではありました。
—たとえばどんなところが難しかったですか?
米森 今回、発売が決まった「とうきび粒入り」は、文字通りとうきびの粒がそのまま入ったカップアイスです。ただ、単純にとうきびを茹でて混ぜ込めばアイスとして成立するわけではありません。茹でたとうきびをアイスに入れても、ガッチガチに凍っちゃって、噛めないどころか、もうほとんど食べる凶器です。そんな危険なアイスを販売するわけにはいきません。とうきびをアイスに混ぜ込んだときに、いかに皆さんがイメージするとうきびの味わいや風味、色合いを再現できるかどうかというのが一番の課題でした。
—これ、企業秘密かもしれないけれど、どうやって課題をクリアしたんですか?
米森 とうきびをお砂糖で煮詰めたんです。糖分を上げることで、冷凍の温度帯でもガチガチには凍らず、シャリッとした歯ざわりになります。とはいえ煮詰めすぎると茶色いカラメル状になってしまうので、噛んだときにとうきびアイスと相まって風味を楽しんでいただけるようなギリギリのラインを狙って煮詰める時間や温度、お砂糖の量を調節しました。
盛川 米森はあっさり口を割っちゃいましたけど、とうきびの粒をまるごとアイスに入れたのはおそらく業界としても初めてのはずです。うちとしてもチャレンジングなテーマで、すごく勉強になりましたね。
—「とうきび粒入り」の秘密をさっそく聞いちゃいましたが、開発段階では他にも「ミルクジャム」「白ワインシャーベット」を123名の組合員さんが試食しています。試食用だからといって中途半端なものが出せるわけではないですよね。
米森 そうですね。「ミルクジャム」に関しては原料選定にこだわりました。味の決め手となるミルクジャムには、道内の酪農家さんが作るミルクジャムを厳選しました。「白ワインシャーベット」には北海道のワインメーカーの白ワインを使用しました。お子さんでも食べられるようアルコールの割合を極力抑えながら、ワインの風味を感じられるレシピを作るのは結構苦労しました。
—それぞれ完成品レベルで開発を進めていたんですね。選ばれなかった「ミルクジャム」「白ワインシャーベット」が世の中に出ないのはもったいない気もします…。
米森 組合員さんからたくさんのアイデアをいただくところからこのプロジェクトはスタートしました。最終的には一つの商品に絞り込みましたが、それは皆さんの意見を切り捨てて誰か一人のアイデアを採用したということではなく、カタチにはならないけれども、皆さんからいただいたご意見の裏側にある思いやエッセンスを、できるだけ汲み取って商品にすることに努めました。
多くの組合員さんから「地元の食材を使いたい」という意見が出ました。「今までに食べたことがないアイスを食べてみたい」という声も寄せられました。「健康を気づかった商品にしてほしい」といった要望もありました。それらのポイントも、なるべく試作品に盛り込むようにしました。
たとえば「とうきび粒入り」は、北海道産のとうきびを使うことはもちろん、「黄金そだちの別海牛乳」をはじめ道産素材をふんだんに使用しています。「食べたことがない」という意味では、粒入り自体が初めての試みです。健康面では甘さを控えめにして、カロリーを抑えました。「ミルクジャム」も「白ワインシャーベット」も、それぞれこうしたポイントを試作品に落とし込みました。
盛川 覚えているのは、試食を行った後に組合員さんから「全部おいしいので全部商品化して!」というご意見をいただけたことです。これはもう、素直にうれしかったですね。
米森 私が印象的だったのは試食会の盛り上がりです。真剣な会議の場ではあったけれど、試作品を出した瞬間に、皆さんワーっておしゃべりしながらアイスを囲んでくださいました。おいしい! 楽しい! それがアイスの原点だと思います。それを目の当たりにできたことが私にとっての励みになりました。
—今回の商品ですが、「北海道産とうきびアイス 粒入り」という商品名に決まりました。発売を控えた今のお気持ちを聞かせてください。
盛川 私たちはコープさっぽろとのご縁でこのプロジェクトに参加させてもらいました。さくら食品は1961年に創業し、60年以上がたちます。大手乳製品メーカーの指定工場としてOEM(他社ブランドの製品を製造すること)主体でアイス製造を行ってきました。スーパーで売ってるようなソフトクリームの製造機を業界で初めて開発したのが、何を隠そう当社なんです。そうした技術力や北海道産素材へのこだわりを評価していただき、コープさっぽろのPB商品開発に協力したところからコープさっぽろとの連携が始まりました。「黄金そだち 北海道産別海牛乳ソフト」は特にご支持をいただいてる商品です。
ところが、今から数年前にさくら食品は設備投資の無理が影響して経営的に苦しい局面を迎えました。このときに手を差し伸べてくれたのがコープさっぽろでした。組合員さんに愛されているアイスを、なんとかして残したいという思いもあったのだと聞いています。ですから、組合員さんの期待に応えることは、私たちにとっての恩返しの意味もあるのです。
—ええ。
盛川 私たちさくら食品は、「感動と笑顔を世界に届ける」を会社のミッションに掲げています。本当においしいものに出会った瞬間って、人間はちょっとびっくりして、それから笑顔になりますよね。驚きと笑顔をもたらす商品をお届けしたいというのがわれわれの願い。アイスにはそれをかなえる特別な力があると確信しています。
—たしかにアイスって特別なものかもしれません。
米森 うちでは、お風呂からあがった後のお楽しみがアイスなんです。子どもたちはお風呂あがりのアイスが大好き。家族の団らんだったり、自分にとっての癒やしだったり、そういう瞬間を作り出せるのがアイスですよね。
盛川 そうですね。今回の「北海道産とうきびアイス 粒入り」も、『自分たちのアイス』として語りたくなるような、お知り合いに自慢したくなるような、組合員さんにとって特別な商品に育ってくれたらいいなと願っています。
—盛川さん、米森さん、ありがとうございました。「北海道産とうきびアイス 粒入り」の発売は宅配は5月第5週、店舗は6月3日(月)。コープさっぽろの店舗、宅配トドックの限定商品です。そして、この連載の最後はコープさっぽろの担当バイヤーに話を聞きます。