Vol 04. EATALY
EATALY概略
EATALYは、イタリア トリノにあるフィアットの工場の隣。カルパノ(リキュール製造メーカー)の工場跡地に建てられた。EATALYがオープンしたのは、2007年1月26日。その前に3年間くらいの準備期間があった。2階はカルパノの博物館になっており、カルパノの歴史を辿ることができる。EATALYは商品セレクトからコンセプトまでスローフード協会のコンサルティングを受けている。
EATALYは大きく分けて3本の柱で成り立っている。1つは食品の販売、2つ目はレストラン事業、3つ目は食教育である。
EATALYが始まったきっかけは、ブラのうまいもの好きの文化人からスローフードという考え方が生まれ、そこから発展していった。その一番のきっかけとされているのが、1986年ローマにマクドナルドができた時をきっかけだとされている。その背景には、ワインが美味しいとされて有名だった地方のワインにエタノールが入っていたり、添加物が多い食品が流通されるようになった時に、味覚の画一化が起こったのを危惧した食に精通した文化人たちが、このままではいけないと、食の重要性を今一度見直し、発展させるべきだと考えたことから始まった。これがスローフードの考え方の根源だろう。大型流通による食の質の低下は日本も同様で、EATALYのコンセプトやその背景にある考え方から学ぶ点は多い。
創業者はアルバ出身で、元々は家電製品チェーンを経営していたが、売却してEATALYを始めた。土地の所有者であるトリノ市が工場跡地利用の企画を公募。EATALYの企画が指名を獲得。経営者はピエモンテ州アルバの実業家、オスカール・ファリネッティ。
スローフード協会は、生産者の選定と契約への橋渡し、イベントのアイデアなどのコンサルタントとして設立準備の段階から関わっている。
EATALY設立の目的
一部の富裕層の人々が手にできるような製品ではなく、より多くの人々が手にできる安心で安全な質の高い製品を消費者の手に届けたいというのが始まりである。
EATALYのコンセプト
青空市場を一同に集結させたものが現在のEATALYのコンセプトである。つまり市場のモール化。そして野菜市場の前にはそれらの野菜を使ったお料理を食すことができ、魚売場の前では魚料理を、肉売場の前では肉料理を食すことができる様になっている。EATALYに参加する事業主はおよそ2000社。(2010年現在)
食教育
EATALYを語る上で大事なキーワードに“食教育”がある。EATALYにおける食教育の歴史は、時代とともに変わっており非常に興味深い。また食教育は食の飽和状態にある現代において非常に重要なテーマであり、スローフード協会からたくさんの知識・情報の提供を受けながら進化している。また日本における食育とはニュアンスが異なり、イタリアでは食育という言葉は存在しない。食教育の一環として、料理教室も開かれている。
消費者との能動的なコミュニケーションの促進
売場で意識されているのは消費者との積極的なコミュニケーションの促進。ただ単にものを売るという考え方ではなく、消費者がEATALYの積極的に関わり、納得した上で商品を購入できる様に工夫されている。
その工夫として上げられるのは、テイスティング、地元のシェフとのコラボレーション、お料理教室などである。過日の未来店舗フォーラムで語られていた“売らない場”の進化版がEATALYにあると言える。つまり、テイスティングによって自分が本当に欲しいものを自分の五感によって確かめ、納得した上で商品を購入することができる環境を整えているのだ。
EATALYの立地
カルパノ社の工場跡地。1980年代まで工場として稼働していた。この土地はトリノの中でも郊外に位置している。この土地は経済発展とともに発展を遂げてきたが、経済成長が減退するとともに、この土地自体も衰退していった。そこで、ピエモンテ州の地域再開発の意味も込めて、この土地にEATALYを創設することを考えた。地域再開発であることから、周りの人々からの理解を得ることができたこともこの土地に立地し、成功した1つの理由だと考えられる。
低コスト化
質の高い製品をリーズナブルな価格で消費者に提供するには、どんな工夫があるのか。その答えは流通経路の短縮化である。個人事業主と直接取引をすることによって、食品以外の部分になるべくコストをかけない様にしている。
中間流通が入らないということは、リスクの分散がなされないということを意味しており、日本ではなかなか難しい面もあるが、消費者によりよいものをリーズナブルな価格で販売したいと考えた場合必要な施策であることは間違いない。
カウンターサービス
販売されている商品を使ったものを食べられるサービス。魚、肉、ハム・チーズ、ピザ・パスタ、ワイン、ビールを食すことができる。
参加メーカー
提携社数は2000社を超える。イタリアでは小さな事業主でも個々で独立している。個人の小さい農家も自立し、生計を立てることができる仕組みは、流通革命である。
EATALYが持っているメーカー
全部で19社。ワイナリーが1つ、パスタが1つ、チーズが1つ、その他である。
すべてのメーカーではないが、経営困難になっている会社を買収し、歴史と文化を大事にしながら経営再建の手伝いをし、EATALYのメーカーになってもらっている。そして、それぞれのメーカーに対して、EATALYは独占権を持たないので、メーカー側はEATALY以外でも製品を販売することができる。事業主を尊重した形である。
日本の地域再生における取り組みも、EATALYの様に個人の事業主のみならず、その会社の背後にある歴史・文化、ひいては地域文化を大切に維持しながら再建していこうという、育てる経営という視点がこれからの小売業にとって非常に重要な概念なのではないだろうか。
取り扱い製品に対する考え方
商品のパッケージには、①メーカー名、②イータリーのロゴ、③生産者ロゴが入っている。EATALYの考え方として、生産者主体であるべきだという考え方のもと、生産者ロゴが目立つように配慮されたパッケージとなっている。ここからも生産者を大事にしようというEATALYの考え方を垣間見ることができる。
そして、この考え方から日本の未来店舗において、小売業のあるべき姿として考えられるのは、単なる販売代行としての機能だけでなく、生産者の人々が手塩にかけて生産してくれた製品の価値を伝達する価値伝達代行になるべきだということである。その取り組み方法など、どのようにすれば日本で成功することができるのか、検討していくことが求められる。
<旅行会社との提携>
EATALYの成功を受けて、旅行会社から提携しないかという話になり、EATALYのパートナーとして参加している。その内容は食品に関わる旅を提供するというものである。昨年末にオープンしたばかりであった。知性の香りを乗せながら、旅をし、食を楽しむことをコンセプトとしている。
EATALYでは異業種交流が盛んである。この旅行会社との提携もその典型である。食というコンセプトを通じて、様々な業態がコラボレーションをし、その価値を高めあおうとする姿勢は日本における異業種交流でも参考になる部分が多いと感じた。
<旬の感覚・味覚教育>
EATALYに入ってすぐに右には本屋さんがあり、食に関する様々な書籍を見ることができる。ほとんどがイタリア語だが、少し英語の書籍もあった。
また入り口に入ってすぐに、円盤状の食材のイラストがたくさん描かれたマップを発。このマップはイタリア トリノ地区の旬の食材をその時々ごとに記されたものであり、どの時期にどの食材を食すことができるのか、一目で確認できるようになっている。このマップが作成された目的は、イタリアも日本同様に食材を通年を通して得ることができ、旬を忘れかけている現状がある。これは行き過ぎた消費者志向だとも考えられており、もっと旬を大事にした食生活を送ろうという考え方のもとに作成されたものである。またこのマップの題名は「賢く食べよう」と書かれており、旬の感覚を忘れつつある日本においても必要とされる知識だと言える。
<取り扱い製品>
EATALYで取り扱っている製品は、どこにでも流通している製品ではなく、小中規模の事業主で質の高い製品を生産している食品を取り扱っている。
ここでいう質とは、安全・安心な製品であるだけではなく、イタリアの伝統・文化を大事にし、歴史という付加価値を有していることを意味している。
製品を取り扱うかどうかというセレクトの基準は、スローフード協会のアドバイスのもと、どういった店頭にしていこうかという、どういった製品を並べたらいいのかという店頭基準でセレクトされている。
<他業種との連携>
EATALY全体の成功経て、他業種からのコラボレーション企画が沢山入ってきている。その一つの旅行業界とのコラボレーションである。昨年末から始動し、“食”をテーマに面白いレジャー企画を出している。
日本においても“食”と“レジャー”は切っても切り離せない存在になっている。食と中心にあらゆる業態がコラボレーションしていくことによって、外食産業並びに、食に関連する業態の活性化が図れることは間違いない。日本の外食産業でもこれら他業界とのコラボレーションを考慮していくことが求められるだろう。
※EATALYの記事は、2010年 筆者視察時の記事を元に加筆
2017年3月6日(月) 星野浩美