Vol 08. 教育農場(北イタリア編)

教育農場の起源 ~北欧諸国から~

教育農場は、20世紀はじめ、北欧諸国のノルウェー、デンマークとスウェーデンで最初の教育農場が始まったと言われている。これらの運動は、アメリカを中心に”4Hclub”と呼ばれ、頭(Head)、健康(Health)、心(Heart)、手(Hand)を使い、“impala facendo”をスローガンに、“実体験を通した学習”の実践を推進した運動として言われている。

教育農場のはじまり 画像出典:http://www.fattoriedidattiche.biz/articoli-e-notizie/guide/storia-delle-fattorie-didattiche.html

イタリアでの教育農場の起源

イタリアでの教育農場の起源は、イタリア中北部 エミリアロマーニャ州の“Alimos”という声もある。1967年以降、生産者と農業技術者で作られたNPO組織の人々によってスタートし、果物や野菜の生産及び、生産プロセスのイノベーションを通して、農業の活性化を実践し、環境保護のサポート、新たな食文化の普及を使命とした。「食文化の普及」を教育農場においても実践する思想がイタリアらしいと感じる。

画像:google mapsをもとに加筆

2010年にアリモスで行われた最新の国勢調査において、エミリア=ロマーニャ、ロンバルディア、ヴェネト、ピエモンテとプーリアを中心に2000以上の認定教育農場ができている。※2013年4月調べ

出典:http://www.fattoriedidattiche.net/it/home.html

教育農場視察

2013年4月、ピエモンテ州を中心に、5つの教育農場を視察。その内の一つ、フィレンツェ近郊の「Baaugiano」とトリノ近郊のジェラートの人気店でもある「Agrigelateria San Pé」について紹介する。

  1. Baugiano
  2. il Frutto Permesso
  3. Agrigelateria San Pé
  4. CASCINA NERI
  5. TERRA & GENTE

教育農場紹介1: 週末には100人以上が集まる大人気教育農場 Baugiano

Baugianoは、フィレンツェから車で1時間程度の山の中腹にある教育農場。1999年に農場を開拓し、2006年から教育農場をスタートしている。経営は、家族経営。経営者のステファニー氏とその父の2名のほか、社会福祉施設からの派遣者の受け入れを行っており、農場での子どもたち向けの先生(アニマトーレ)、キッチン作業、農作業などをされていた。派遣される方々は、発達障害を持った方や、ドラッグ経験者、アルコール依存症者などの社会復帰を目指す方を支援するNPO団体からの派遣されており、2013年現在は5名を受け入れていた。

農場全体の広さは、30ヘクタール。その内、7ヘクタールで農作物を作ったり、教育農場として活用している。農場には乳製品の加工施設があり、チーズ・ヨーグルトの製造をしている。規模は大きくなく、週1回の市場で数十個販売する程度。その他の施設としては、施設の多くの部分を占める森の他、先史時代を知ることができる建物や、四季の花の香りを感じることができる「香りの庭」、ピクニックエリア、教育ファーム、動物(馬・ロバ・牛など)、も飼育され、家族が週末ゆっくり過ごすごとができる施設が用意されている。

年間の来場者数は1万人以上。その内70%が幼稚園児。平日は、学校、週末は家族連れが多い。一般客に何をきっかけにこの農場を知ったのかをインタビューしたところ、6組中すべての家族が友人からの紹介だとおっしゃっており、口コミの影響が大きく、リピーターが多いのも特徴的。

午前10時過ぎ、トヨタ・日産・アルファロメオなどに乗ったご家族が続々と集合 顧客は推察するに少々所得が高そうな方が多かった

Baugianoの教育プログラム

出典:Baugiano HP

プログラムの受講は、主にWEB予約制。団体の場合は、最低20人から予約可能で、体験料金は、小学生以下:3€、小学生:5€となっている。昼食は2パタンあり、パスタ・サラミ・パン・水のコースは、6€、プリモ・セコンド(肉)・付け合わせ・パン・ドルチェ・水のコースは、10€となっている。アグリツーリズモとして宿泊の受け入れもしており、朝食込で、子ども:25€、大人:50€となっている。食事に関しては、予約時に、子どもたちのアレルギーなど聞く項目も設けており、アレルギー対応もしている。

10€タイプのランチ

  • パスタ
  • ロースト肉
  • 付け合せ(ほうれん草炒め)
  • デザート(ボンボローネ)
  • パン

豊かな森の自然、歴史を学びながら体験するプログラム ~Alla scoperta della nostre radici cantadine~

プログラムは、10時半頃からスタートし、ランチを入れて15時くらいまでの4時間半程度のプログラム。プログラム内容は、森の中に小人が住んでいて、その小人のお家をまわりながら森に棲む動物や、フィレンツェ周辺で昔から作られている農作物・乳製品・ワインについて楽しみながら学ぶプログラムになっている。

経営者のステファーニーさん。醸造の小人の家の前
森を元気づけるダンスの練習中

教育農場紹介2: ジェラートが大人気

Agrigelateria San Péは、1999年に牛乳の乳量規制などから経営が困難になり、何とかしなければならないと危機感を覚え、質の高い牛乳と果物を活かした事業ができないかと思いつく。ただのジェラートでは面白くないので「Agri(農業)」と「gelateria(ジェラート屋)」を掛け合わせた「Agrigelateri(アグリジェラテリア)」という新しいジェラートのカテゴリーを創出した。2001年から本格始動。Eataly本店への出店を含め3店舗を運営(2013年4月現在)。

左からAlfonsoさん, Antoniettaさん、Giovanniさん 出典:Agrigelateria San Pé HPより 

教育農場を始めたきっかけは、写真左のジャバンニさんの熱い思いから。彼は現在、Agrigerateriaの広報を担当しているが、以前はエンジニアだった。自然とかけ離れた生活をする中で、実家に戻り農業をしたい、自然離れした子どもたちが増えているので、教育を兼ねた、自然と美味しいジェラートを楽しめる教育農場をやってみたいという思いから、Agrigerateria創業当時から教育農場のプログラムをスタートしている。

Agrigelateriaでの教育農場のプログラムは、こちらの看板商品でもあるジェラートづくりが主。原料である牛乳は全て自家製。果物もほとんどが自家製。素材はいたってシンプル!latte(牛乳)、zucchero(砂糖)、panna(生クリーム)の3つのみ。素材そのものの味を楽しめるジェラートを子どもたちと一緒に作り、その味を体験してほしい、自然の豊かさを感じてほしいという思いが込められている。

我々が視察した際は、小学校の2クラスがバスで訪れていた。プログラム10時~14時の4時間コース。ジョバンニさんから子どもたちに「Agrigelateria San Pé 」の説明をし、牛舎へ。牛の生態について、胃の数や反芻について説明委する。その後餌やり(干し草)をし、農場視察。農場には池があり地元の魚「TINCA(鯉のような魚)」の説明もする。とにかく、子どもたちに自分が生まれ育った場所について知ってほしい、誇りを持ってほしいという思いから、牛だけでなく、自然と池も作るようになったとのこと。その後、ジェラートができるまでの工程を観察し、実際に食べ感想などを聞いていた。そしてお楽しみのランチ。その後、ピクニックができるスペースで、1時間以上十分に遊んだ後、バスで帰宅していた。

ものすごいパッションで子どもたちに語りかけるジョバンニさん
干し草遊びをする時間も
ジェラートづくりをみんなで見学
ちょっと離れたところで見学
最後は美味しいジェラートを試食

5か所の教育農場の視察で気づいたこと

ヨーロッパの中でも教育農場が数多く存在するイタリアの現状を製品ライフサイクルの枠組みに当てはめて考えてみると、農場の数が増加し、「プログラム内容の同質化」 が起こっており、「成熟期」の段階にあり、都市圏から1時間以上の立地の農場や、教育プログラム以外の集客要素がない農場は集客に苦しんでいたということ。他の農場との「差別化」要素をどう作るかが成長のカギになると感じた。

製品ライフサイクルの概念から見た北イタリアの教育農場 ※図は筆者作成

<教育農場の成功要因(7つ)>
 5か所の教育農場を視察する中で、教育農場として成功するポイントだと感じたのは以下の7点。イタリアであれ、どこであれ、以下の要素全世界共通だと思われる。

  1. 立地:都市部から車で1時間以内
    ⇒これ以上遠いと、なかなか人が来ない
  2. 本業(農業・畜産業・販売)の経営の安定している
    ⇒教育農場だけを軸に運営しているところはなかった
  3. 学校との連携
    ⇒一般客だけでは経営的に厳しい。学校の年間行事に入れられると、収入が安定
    今のお客さんは、学校の先生
  4. 教育プログラム以外の集客要因がある
    教育プログラム以外で、何か1つ「この農場はこれ!」というものがある
    (例、食事(リストランテ)・ジェラートなど)
  5. イベント・教育プログラムなどソフト面の充実
    アップデートしないとリピーターがつかない
    雨天でも実施できるプログラムがある
  6. プロモーション・パブリシティ
    HPの管理、イベントの案内の作成
  7. 同業者との交流・情報交換
    情報のオープン化、生産者同士情報交換の場の設定(例:Baugiano)

2013年4月 星野浩美

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