Vol 13. モンドラゴンコープ
始まりは、15分の日本語ビデオから
到着すると、まずパスポートチェック。かなり念入り。後で分かったのだが、この建物はモンドラゴングループの金融部門のオフィスなので、セキュリティチェックが厳しいとのこと。無事受付を終えると、受け入れ担当のAnderさんが笑顔で出迎えてくださった。すっとした佇まいで、表現が難しいのだが「生協人」といった雰囲気を感じた。
まず案内してくれたのが2階にあるシアタールーム。50人程度は入るだろうか。少し待っていると日本語のビデオが流れてきた。このビデオを作製したのは、視察者が全世界から来るため、作成したという。日本の視察者の多くが生協関係者だとおっしゃっていた。ビデオの内容はモンドラゴングループの成り立ち。以下、詳細を見て行こう。
モンドラゴンコープの成り立ちと「今」
モンドラゴン生協とは1956年にギプスコア県モンドラゴンの町に組合は設立された労働者協同組合。
その起源は、バスク人のカトリック聖職者ホセ・マリア・アリスメンディアリエタが1943年に開設した小さな技術系学校にさかのぼる。アリスメンディアリエタが1941年にモンドラゴンに着任した時、人口約7,000人の町は、貧困、飢え、亡命、そして緊張を招いたスペイン内戦の後遺症に苦しめられていた。彼は貧困の人でも学べる環境を整えたいと、技術の教育の場である職業訓練学校を設立した。時がたつにつれ、その学校は地元企業の熟練労働者、技師、管理者の養成所となっていった。また組合設立以前は、アリスメンディアリエタはキリスト教に基づく人道教育と、技術の取得を若者に施していた。
1955年、ウニオン・セラヘラ社 (Unión Cerrajera) で働く若者の中から5人をアリスメンディアリエタが選び、ファゴール社の前身となる、パラフィン・ヒーターを製造する小さなワークショップ、ウルゴール社を開設した。ウルゴールは、5人の創設者の頭文字をとっている。最初の15年間は、閉鎖経済の中で利益を上げた。1959年、組合の一事業としてカハ・ラボラル(信用協同組合)が設立された。1966年には社会福祉事業としてラグン・アロ(スペイン語版)、保険業)が設立された。1969年には、地元にあった9つの消費者生活協同組合を統合してエロスキ(スーパーマーケット・チェーン)が設立された。1997年、教育機関としてモンドラゴン大学を開校した。現在では、スペインにおいて、総資本回転率 (asset turnover) の点で第7番目の規模の企業であり、バスク自治州をリードするビジネス集団である。
現在、事業の柱となっているのは、4つ。金融・工業・小売そしてナレッジで。これらの事業を合わせると、103会社を所有している。一時期は120以上あったが、スペインの不況もあり、その数は減少していると、今回お世話になった受入担当のアンデルさんがおっしゃっていた。家電部門のファゴールが倒産した時は、スペイン全土のニュースでトップニュースとして取り上げられるほど大きな話題となったという。
モンドラゴン協同組合企業は、人と労働者主権に基づいたビジネス・モデルに従って運営され、連帯に根付いた強い仲間的な会社の発展を可能にしており、強い社会的な思想によっているが、ビジネス的な手法を否定しない。協同組合らは、その労働者組合員によって所有されており、権力は一人一票の原理に基づいている 。私たちは誰でもトップになれるし、その権利を有している。それと同時に一度モンドラゴンに入ったら、この組織をサスティナブルにしていく責任があると彼はおっしゃっていた。
組合員になるには、1,500€(日本円で160万円程度)出資する必要がある。また出資金はやめるまで引き出せないが、その利子(7.5%)はいつでも銀行から引き出すことができる。また彼らの給与格差は、最低賃金の方を「1」とすると、トップの方との差は「5」とのこと。この「1:5」がモンドラゴングループの特徴であるという。Ander Etxeberriaさんも、我々は他の企業の方よりもいい給料をもらっていると断言していた。
またモンドラゴン本部から見える形式の企業は、ほぼモンドラゴングループ。本部がある4階建ての建物も、1階は本部機能で、2、3回はファイナンス部門。ちなみに、入口ではパスポートチェックもされた。金融部門があるからだという。銀行、大学、研究所、マーケティング・コンサルティング会社など、まさに「モンドラゴン王国」といった様相だった。労働者の協同組合の資本的な強さを感じた。
ヨーロッパでは1830年代から労働者協同組合が設立され、日本とは150年のタイムラグが存在する。日本では労働組合の歴史がスペインほど長くないため、そのまま真似るといのは難しいと感じた。しかし、学びはとっても多かった。
モンドラゴン本部での気づき
組織の発展の基礎に「教育」があること。あらためて「教育」の重要性を感じた。また教育の基盤の上で、ナレッジの共有によって、更なる発展があることを肌で感じた。そして世界の生協を見ると、「生協」という組織の多様性と豊かさを感じた。
本部2階から、「モンドラゴン王国」と言えるほど、モンドラゴングループばかりの街を見て、バスクの文化に根差したモンドラゴン生協の発展と、グループ組織としての強さを感じた。
モンドラゴングループの小売部門「エロスキー生協」視察
コープさっぽろでいう地区本部長的存在のエリアマネージャーのJosean Yela Lizarraldeさんと、女性店長さんにご案内いただいた。今回訪問させていただいたのは、モンドラゴン本部から車で20分ほど場所。山岳地帯のため、本部から1つ山を越えた場所にあるハイパーマーケットへ。この地区の基幹店。モンドラゴングループの小売部門。1年前に改装された店舗で、店舗面積は6,000㎡、家電、日用品、食品など2,800の商品を扱っている。店舗には消費者教育を行うミニ教室も作られていた。ちなみにエロスキーの意味だが、「エロス」とはバスク語で「買う」、「キー」は「場所」という意味。そこから「エロスキー」というネーミングが生まれた。エロスキーの競争環境を見ると、この店舗の地域はバスク地方ということもあり、メルカドーナやカルフールなどが入って来られない。そのため、大型スーパーはエロスキーだけである。
エロスキーのプライベートブランドは6つ。イアリア生協のように、高級ライン、健康志向の商品ラインなど取り揃えている。Bioのコーナーもあり実験的に展開しているという。ワインもエロスキーブランドは美味しくて低価格で人気とのこと。ワインのブランドを守るため商品にエロスキーのロゴは入っていなのだが、提携ブランドとの協同開発商品として人気だという。
最後に女性店長にお話を伺った。モンドラゴングループでは女性店長が多く、日頃は店のマジメント業務に付、店舗職員は115名。店舗カウンターにはお客様の声を集める仕組みがあり、まさにコープさっぽろの「組合員の声」と同様で、専用の紙を透明のボックスに入れる。その声への回答は48時間以内。これがルールとなっている。声の多くは、買いたい商品が買えなかった、レジ待ち時間が長すぎる、店員の対応が悪いなど。これは日本もスペインも変わらないのだと感じた。またサービスカウンターには、「cho-co-tto」的な冊子が置かれ、バスク語、スペイン語の2パタンで作られ、無料配布されている。何だか似ているな~というのが率直な感想だった。
2016年3月8日(火) 星野浩美