2024.12.25
-Story02- 「開発中止も頭をよぎった…」 無理難題に挑んだメーカーの話
コープさっぽろの組合員さんが主役となって作る濃厚つゆ開発ストーリー。第2話は商品開発を手がける株式会社にんべんの岡崎政勝さん・髙瀬佳子さん・田中敢さんのインタビューをお届けします。実は開発途中、組合員さんの要望を聞き入れる中で従来の技術では対応が難しく、プロジェクトが暗礁に乗り上げる一幕も。高い壁を乗り越えられたのは、「熱い思いに応えたかったから」と振り返ります。
——今回のプロジェクトを持ちかけられたとき、どう思いましたか?
岡崎(家庭用事業部 部長) コープさっぽろの杉野バイヤーから「北海道産原料を使用して、組合員さんの意見を取り入れた濃厚つゆを開発したい」とお声がけいただいたときには、正直びっくりしましたし、素直にうれしかったです。弊社は1964年に「だしを加えたつゆ」を業界に先がけて発売し、2024年に60周年を迎えました。その実績と経験を生かして組合員さんにご満足いただけるような商品を作り、にんべんのことをより多くの方に知ってもらえたらと思い、プロジェクトに参加しました。
田中(商品サービス企画部家庭用グループ 係長) これまでもエンドユーザーと商品開発を行ったことはありますが、あくまで開発工程のごく一部。今回のようにゼロベースからというのは弊社にとっても初めての試みでした。
——それだけに予定調和ではいかないことも?
髙瀬(研究開発部 次長) はい、スタート段階から(笑)。一口に「つゆ」といっても地域によって好みが違います。当初は、市場動向から北海道の皆さんが好むのは、甘くて濃いめのつゆだと考えていました。その想定の下、4月に試作品を持って初めての試食会を行ったところ、多くの組合員さんから「甘い」というご指摘をいただきまして。「あれ? 聞いていたのと違うぞ」、と(苦笑)。関東の私たちには北海道の人にとっての「甘い」の基準がわからない。そこで弊社の商品をいくつか試してもらい、どのレベルを「甘い」と感じるのか、感覚の差の調整を行いました。
私たちにとっては、好みを知るところからのスタートだったんです。
——商品づくりにあたって大変だったことは?
岡崎 いろいろありますが、一番は昆布ですね。北海道広尾町に「星屑昆布」という加工品があります。昆布漁師の保志さんが、昆布を製品化するときに発生する端材を活用した製品です。
組合員さんの強い要望で、星屑昆布を使ってみようということになりました。私たちとしても初めて使う原料で、普段の昆布とは勝手が違いました。
髙瀬 普段弊社では7〜8ミリ角のチップ状に粗くカットした昆布を使用しますが、星屑昆布は粉末状だったんです。そのため、だしを抽出するろ過工程で機械が目詰まりを起こすトラブルが想定されました。また、味わいも香りもとてもいいのですが、普段の昆布よりもとろみが強く、だし抽出がうまくいかないという問題も発生しました。それで工場側からNGが出てしまい、星屑昆布の使用を一度お断りしました。
田中 ただどうしても星屑昆布を使いたいという組合員さんの強い思いがある中、工場との折り合いがつかず、いったんプロジェクトそのものも止まりかけたんです。
髙瀬 私たちとしてもなんとか星屑昆布が使えないか、引き続き原料調達のやりとりを続けました。そうしたところ、原料を少し大きめにカットすることもできるというお話をいただきました。工場と改めて調整を重ね、目詰まりの問題が解決しました。また、私たちの協力会社に特殊な前処理加工をしてもらったことでとろみを抑えることに成功しました。
—星屑昆布もそうですが、しょうゆも北海道製造・北海道産原料にこだわるあまりに本州までコンテナでしょうゆを送ることになったと聞きました。普段のやり方を曲げてまで、組合員さんの要望に応えたのはなぜでしょうか?
岡崎 それはやはり、「組合員さんのアイデアを形にしたい」という杉野さんの熱い思いがあったからです。そして「いいものを作りたい」という、コープさっぽろの組合員さんの揺るぎない思いがあったからです。それを社内や協力会社に伝え続け、ここまできました。
——プロジェクトを振り返り、印象に残っていることは何でしょうか?
髙瀬 組合員さんの北海道愛の強さです。やはりお値段のことを気にする組合員さんもいらっしゃいましたが、組合員さん同士の話し合いの中で、「北海道から発信するつゆだから、とことん北海道産がいい」という結論にいたった経緯があります。北海道愛がすごいなと思いました。
田中 アイデアを商品にしていく過程で、ただアンケートを取って終わりではなく、組合員さん同士でいろんな話をされながら、詳細をちゃんと詰めていく姿に驚きました。「市場ではこうだから」という発想では、なかなか今回の商品にはならなかったでしょうね。
——今回の商品のおすすめポイントを3つ挙げてください。
田中 組合員さんの声をもとに作ったこと。これは一番大きなポイントです。
髙瀬 北海道産素材をふんだんに使っていること。個性のあるしょうゆと星屑昆布、さらに北海道産ホタテのうまみも加えています。
岡崎 かつお節専門店にんべんが作る、だしが効いたつゆであること。かつお節のだしは、やはり弊社の強みですから、そこは譲れないポイントでした。
髙瀬 今回の開発商品の濃厚つゆですが、割ってお使いいただいたときにも必ず「だし感があるね」と言っていただけるつゆに仕上がっています。
田中 めんつゆとしてだけではなく、料理の調味料としてもおすすめです。組合員さんから「この商品を使ったレシピも提案していきたい」という声もいただいていますが、商品開発は発売したら終わりということも多い中、こうした声はとてもありがたいですね。
岡崎 ぜひ、組合員さんの手で商品を育てていただきたい。メーカーとしても、全面的にその後押しができたらと思います。
——皆さん、ありがとうございました。次回は、星屑昆布を手がける広尾町の昆布漁師・保志弘一さんを取材します。