2025.1.24

-Story03- 「広尾の昆布を知ってほしい」 クズを価値に変えた漁師の話


今回の濃厚つゆ開発で組合員さんがどうしても譲らなかった原料の一つが星屑昆布(ほしくずこんぶ)でした。第3話は、星屑昆布を手がける十勝広尾町の昆布漁師、保志弘一さんのインタビューをお届けします。「星屑昆布って何?」「ほかの昆布とは何が違うの?」、そんな疑問の一つひとつを解きほぐすうちに見えてきたのは、小さな昆布の粒に込められた、とてつもなく大きなビジョンでした。

——まずは星屑昆布について教えてください。
星屑昆布は、昆布を製造する過程で生じる端材を集めて粉砕加工した天然昆布100%のうまみ調味料です。「だしを取る」という従来の昆布の使い方に対して、「ふりかける」「混ぜ込む」といった使い方ができます。


——星屑昆布の魅力は何ですか?
一番の特徴はだしの即効性です。昆布だしはグルタミン酸の一本足打法みたいな形で特化していて、お肉やチーズ、トマト、きのこといったうまみを持つ食材に対して掛け合わせやすいという特徴があります。一本昆布を贈ってもなかなか使ってもらえないこの時代に、昆布を調味料化することによって、いま一度、食卓に昆布があるシーンを構築できたらというのが願いです。


——星屑昆布はどういったいきさつで生まれましたか?
昆布には長さ1メートル5センチという規格があり、数センチでも足りなければ規格外となってしまいます。そのためあらかじめ少し長めに昆布を切ってから1メートル5センチになるよう切り落として整えます。このときに発生する端材は屑(くず)昆布といって自家消費したり、廃棄していましたが、もったいないのでどうにかしたいというところからプロジェクトが始まりました。

大きさもまちまちの屑昆布を最初は何の気なしにミキサーにかけて粉にし、成分分析をしたところ、グルタミン酸の出る速度に違いがあることがわかりました。2ミリ角にすると通常カットの昆布の2倍の速度でだしが出る、1ミリ角にすると4倍の速度で出る。厚葉や根元に近い部分より、端材になるような薄くて低価値の昆布の方が、だしの抽出速度が速いこともわかりました。つまり粉砕加工によって端材の価値を最大化できるのです。

屑昆布と呼ばれるようなものたちも、加工で特徴を引き出してあげれば、等級の高い昆布にも引けを取りません。そういう戦略の練り方もあることをこの商品で証明したかった。いろんな思いを託して、保志さん家の屑昆布ということで「星屑昆布」と名づけ、2022年3月にリリースしました。

——新商品の濃厚つゆに使われると聞いてどう思いましたか?
仮説として星屑昆布は、さまざまな分野でものづくりに携わる方々をよりブーストしていけるような、星屑昆布自体が主人公じゃなくても、あらゆる人や物を押し上げるポジションになる可能性があると考えていました。まさにこうして形になっていく手応えと確信を得て、うれしいですね。


——濃厚つゆの開発をきっかけに、2024年11月には開発に携わるコープさっぽろの組合員さんが保志さんのもとを訪れて生産現場を見学したと聞いています。
はい、たいへんありがたいことです。単純に昆布を採って生産する中で関わることができるのは漁組と問屋さんぐらいなものですが、星屑昆布を生み出したことで星屑昆布が接点となり、これまで関わることのなかった多方面の人たちとのつながりが生まれています。

コープさっぽろの組合員さんもそうですし、体験観光でここを訪れる方も増えました。毎年大学生が20~30人来て、一次産業を学ぶという流れもできています。

漁業って見方を変えると、教育的側面だったり、エンターテインメント的要素だったり、アクティビティだったり、いろんな可能性が眠っていました。星屑昆布が、自分たちも知らなかった漁業の多様な価値を引き出してくれています。

——まもなく濃厚つゆの発売開始を控えています。濃厚つゆの開発に携わったコープさっぽろの組合員さんや、商品を手に取る組合員さんに向けてのメッセージをお願いします。

実は星屑昆布を作って以降、敬愛する昆布漁の大先輩たちから愛あるお叱りをたくさんいただきました。やはり昆布は和食に使うもの、一本昆布を使う文化はとても大事だと思います。そのルーツは大切にしながらも、現在の多様化した食生活の中にあって、いろんな形の昆布があってもいいんじゃないかと私は考えています。


私たちが一番恐れているのは、地域から人がいなくなる未来です。環境の変化、産業の衰退など、さまざまな課題がありますが、究極のところ人がいれば、知恵を出し合ったり、力を合わせて解決する方向へ進むことができます。でも、本当に人がいなくなって高齢化すると、まちを静かにたたむ方向に舵を切るしかなくなります。今が踏ん張りどころです。


星屑昆布はいずれみんながマネをしていいと思っているし、最初からそのように組み立ててきました。ロスを価値化することをみんながマネすれば、地域からロスがなくなり、みんなの所得が上がります。昆布漁で生活が成り立てば、今度は親が子にやらせるという流れができるはずなんです。人がいなくなる未来に対して、所得を上げながら、地域が人を受け入れていく方向に進み、結果的に社会がよくなる。そこをゴールにしています。


今回ご縁があって、濃厚つゆという形で星屑昆布を使ってもらえるという大変光栄な機会をいただきました。日々の食卓で濃厚つゆを使いながら、実はその裏側に北海道広尾町という、全道1万2000トン(2023年度)のうちわずか100トンの産地からでも、工夫次第で未来に対して挑戦できることが、多くの人に届いたらいいなと思っています。
そして、これからも食卓にあたりまえに昆布があるような、そういう文化を一緒に作っていけたらというのが私の願いです。

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